「同名の映画があるらしい。シュクメルリで有名なジョージアが舞台の映画だとさ」
嘘は「嘘」だから、優しい嘘にせよ優しくない嘘にせよ、相手を騙してることに変わりはねぇな。
某所在住物書きは新しいお題を確認しつつ、スマホをスワイプ、スワイプ。
シュクメルリ鍋の画像を見ている。今年も復活、だという。 ガウマルジョス。
「やさしい嘘、優しい嘘、易しい嘘……」
なんか書きやすい「嘘」のネタ、あったかねぇ。
天井を見る物書きの舌は、既にシュクメルリ。
「『お年玉預かっとくよ』って嘘ついて、親が親自身のために使っちまうのは、アウトだっけ?」
分からぬ。この物書きはおそらく時効である。
――――――
やさしい嘘には、善良な「優しい嘘」と、指摘容易な「易しい嘘」があろうかと思う。
今回は後者。易しい嘘のおはなし。
前回投稿分からの続き物、最近最近の都内某所。
某不思議な稲荷神社敷地内の宿坊に、
逃げるように部屋を借りて、ひとり粛々、自分の仕事をしている者がある。
「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織の法務部、「ツバメ」である。
前回投稿分のおはなしで、ツバメはひょんなことから、大量の花粉をボフン吐き出す上司のハプニングを間近で目撃してしまった。
他部署のイタズラアイテムが原因である。
あんまり花粉ボフンの勢いと量が「酷かった」せいで、上司を当分直視できない。
思い出し笑いを我慢するのも精一杯である。
よって、管理局と協力関係にある稲荷神社に、その宿坊に、ツバメは逃げ込んだのだ。
都内某所の稲荷神社は、不思議な狐が居る神社。
本物の御狐が居る神社である。
よもやここに「アーモンドナッツに偽装されたイタズラ花粉ボフントラップ」はあるまい。
「さて」
喫茶店からコーヒーのセットをテイクアウトしてきたツバメは、宿坊に来てやっと、花粉ボフンの思い出し笑いから開放された。
「仕事を始めよう」
「おじちゃん、コーヒーのおじちゃん」
とてとてとて、ちてちてちて。
客人の魂の匂いを嗅ぎつけて、自分の修行のために餅を売ろうと、稲荷の子狐が宿坊に来た。
「きょうは、なんで、タバコのオッサンといっしょじゃないの?」
稲荷のコンコン子狐は、魂の匂いが分かるので、ツバメの優しい性格をよく理解している。
尻尾をぶんぶん振り倒して、ぐいぐい制服をよじ登って、子狐はツバメの鼻を舐めた。
「タバコのオッサン」は、ツバメの上司のこと。
諸事情で前回、口から大量の花粉を吹き出して、盛大に咳き込んだ。
ツバメは彼から逃げるために宿坊に来たのだ。
「部長は、風邪を引いてしまったんだ」
ここでお題回収。ツバメが小さな嘘を言う。
「だから、私ひとりでここに来たんだよ」
稲荷のコンコン子狐は、魂の匂いが分かる。
ツバメの小さな嘘は、完全に嗅ぎ分けるのが容易な「やさしい嘘」であった。
「うそだ、うそだ。タバコのオッサン、カゼなんか、ひいてないんだ」
「部長には、抜けられない用事があったんだ」
「それも、うそだ。キツネ、ぜんぶ分かるんだ」
「たのむ。部長のことは、何も言わないでくれないかな。仕事に集中したいんだ」
「わかった!キツネ、オッサン、言わない!」
コンコンコン!宿坊のお客様、ただいま、おもてなしのお餅をお持ちします。
子狐は尻尾をぶんぶん振って、ツバメが作業をしている座敷から出ていく。
「やっと静かになった」
ツバメはようやく本腰入れて、作業を開始。
宿坊に持ち込んだ仕事は、だいたい2〜3時間程度の量と質であった。
パチパチパチ。上司の花粉ボフンを頭から追いやって、ツバメは真面目にキーボードを叩く。
パチパチパチ。上司のイタズラアーモンドトラップに威嚇する様子を無理矢理忘れて、ツバメは必死にキーボードを叩く。
忘れよう、忘れよう。アーモンドも花粉も、自分は見ていない。何も知らない。仕事をしよう。
そのツバメの努力を一瞬で爆破解体したのが、きなこ餅を持参して帰ってきた例の子狐。
「コーヒーのおじちゃん!」
子狐は完全に善意で、コンコン!叫んだ。
「しごとのオヤツに、アーモンドパウダー入りの、きなこおもち!どーぞ」
「あーもんど、」
今まで思い出し笑いを我慢していたツバメは、子狐が持ってきた餅を見て、とうとう陥落した。
「よりによって、よりによって……ッ!」
餅にたっぷり振られたアーモンド入りのきなこは、ツバメにはどうしても、上司が数十分前吹き出した、ボフンの花粉にしか見えなかった。
苦しげに、静かに笑うツバメを、子狐はコックリこっくり、首をかしげて不思議がったとさ。
1/25/2025, 4:14:34 AM