電信柱の陰で、刑事ドラマの様に身を潜める。鉄の階段の有る、古びたアパートの一角凝視している母。下から見上げる母は、今迄見たこともない余所の女の人だった。幼い私には予想も付かない出来事が、起こっているのだけは解った。私の手を握る兄の手が、小刻みに震え雨粒が落ちて来る。今思えば兄の涙なのだろう、母は兄を見て静かに歩き出した。脳裏に浮かぶ、兄の記憶はそこで消えている。
11/9/2024, 10:55:10 AM