「今日な、仕事の休憩で珍しく駅前のカフェに入ったんやけどな。そこで隣の席におった高校生カップルがめちゃめちゃに初々しくてな。なんやものすごいときめいたんよ」
夜、向かい合って夕飯を食べてる時にふとそんな話題になった。
「女の子の方が今度の休みにどこに行きたいいう話から好きなドラマがどうだとかって色々一生懸命話よるんやけど、男の子の方がええ顔して聞いとってなぁ」
「それにオッサンのお前はときめいたんか?」
「オッサンいうなや…まぁ高校生からしたら十分オッサンか…てちゃうよ、なんや自分らがそんくらいの頃のこと思い出してもうて」
「俺らが?」
「俺があーだこーだ話すん、お前もよく真面目な顔して聞いとったなぁて思い出したら、なんやこう…」
「若い頃の俺を思い出して胸を高鳴らせたんか?」
「茶化すなて。…そうやよ。ホンマあの頃から今まで色んなことあったなぁて思い返して、胸高鳴らせてみたんよ。まぁお前はそんなんなさそうやけどな」
何を言ってるんだ、この男は。
「俺は今でもお前が毎日笑うたびに胸高鳴らせてるわ」
笑うたびにちらりと見え隠れする八重歯が、あの頃から今に至るまでずっと変わらず可愛くて愛しくて、そう即答すると。
目の前の男はそれまで饒舌だった口をピタリと閉じ、急にしかめ面になり。
「あかん。夕方んアレは胸の高鳴りとちゃうかった。今こそ俺は高鳴りすぎて弾け飛びそうや」
なんて真面目な顔で言うもんだから、俺は思わず声を出して笑ってしまった。
【お題:胸が高鳴る】
3/19/2024, 1:29:36 PM