願いが1つ叶うならば
それは突然で、とても儚い瞬間だった。
「もしもひとつだけ罪が許されるなら、あいつを殺したい」
彼女は、かすれた声でつぶやいた。すぐ横の車道を走るトラックに、危うくかき消されてしまうほどの音量で。
あいつ、というのが誰かはわかっていた。
彼女の後ろの席の、とても自分勝手な人。彼女を、いじめているともとれる人。わたしの隣の席で、わたしも怖くて何も言えずにいる奴。
なんて答えればいいかわからなくて、「そっかあ」とだけ頷いた。静かな帰り道だった。
翌月に席替えが行われた。
わたしと彼女の席は少し離れ、彼女とあいつはほぼ正反対に位置づけられた。
『ごめんね』。それが言えないまま時が経ってしまった。
今も頭をよぎる、彼女の表情。苦しそうに、憎らしそうに、悲しそうに「殺したい」と口に出したとき、どんな心地がしたのだろうか。
だから神様、もし願いが叶うのならば、わたしに勇気を与えてください。
彼女を傷つけたあいつに、最大の報復をくれてやる勇気を。
3/10/2025, 10:15:13 AM