フィロ

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ある日会社の近くの交差点で信号待ちをしていると、肩にモンシロチョウが留まった

「へぇ~、こんな都会の真ん中にも蝶なんて飛んでるんだ!」
とちょっと嬉しくなった
無下に払いのけるのも可哀想な気がして、そのまま肩に留まらせておいた

次の日もまた次の日も肩にモンシロチョウが留まった

「この辺は生息地なのか?いつも同じ昼休みの時間だから腹空かしているのかもな」
と辺りを見回したが他に蝶の姿は見当たらず
、肩に留まるのも何故か僕の肩だった

丁度1週間目の頃には、蝶が肩に留まるのを心待にするようになっていた
ところが、翌日からパタリと姿を見せなくなった

少し残念な気もしたが、他所へ移動したのだろうと考えながらいつものカフェへ寄った

そこは昼休みの時間帯はいつも混雑していて、レジの列も長くなっている
視線を感じて振り返ると、隣の列の後ろの方から知らない女性がとても親しげににっこりと微笑みかけている

「あれっ?顔見知りだったっけ?」
人の顔を覚えるのが不得手な僕は、きっとクライアントの一人だろうと、慌てて頭を下げた

ようやく席を見つけてコーヒーをひと口啜ったタイミングで、先程の女性が
「ここ、ご一緒させて頂いても?」
と、柔らかいとても心地の良い声で尋ねてきた

「どうぞ、どうぞ」
と、少し動揺しながらも彼女を促した


何か話かけなければと
「お近くなんですか?」
と、取りあえずありきたりな質問をした

「ええ、この辺には良く来ています」
「じゃあ、今までもどこかですれ違っていたかも知れませんね!」

「私は毎日貴方とあの信号でお会いしていましたよ」
とその女性はいたずらっぽく笑った



それが彼女との歴史の始まりだった




『モンシロチョウ』


5/10/2024, 9:39:13 PM