私は暫く疲労感を忘れ、宝玉の美しさに驚嘆していた。そして宝玉に触れようと踏み出した瞬間だった。
洞窟奥の影からゆっくりと音もなくフードを被った男が現れた。黒のボロいローブをまとっており、ほぼ暗い岩壁と同化しているようだ。咄嗟に剣を抜こうとしたが、男はなにも言わずナイフをとりだし、飛びかかってきた。
この時、私は疲労感から足捌きが悪く、反撃する態勢を取れず、かろうじて後ずさることで斬撃を回避した。 幸い男との間に少し距離ができたので、私はピタリと止まって、この男を様子を食い入るように見つめた。
男は全身から怒りと苦悩が伺えたが、どこか挑戦的な雰囲気も漂わせている。
震えが全身を走り抜け、自分が身をこわばらせているのを感じていたが恐怖に耐えるべく、ぐっと唇を噛み締めた。それでも剣を抜き、男と対峙することを決めた。
男は抑揚のない静かな口調で言った。
「それでいい」
私は剣を持つ手に力を込め、ゴクリと唾を飲んだ。
4/5/2023, 12:36:07 AM