名無し

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私が今でも思い出すのは、温かい大きな手。

いつも家事してくれているその手は、少しカサカサで。

土曜日に遊園地に行ったあの日も

友達と喧嘩して学校に呼び出されたあの帰り道も

悩んで悩んで眠れなかったあの夜も

全部優しさで包みこんでくれた。

見上げたその横顔は、どんな表情だったんだろ。




ピッ─ピッ─ピッ─ピッ─

無機質な機械音が響く白い部屋。

あの頃よりも皺が刻まれた横顔を見つめていたら、静かに目が開いた。

「…お母さん、おはよう。」

「…………ねえ………」

「…っえ?ど、うしたの?」

ここ最近は言葉を発することなんてなかったのに。

「あのね、お願いがあるんだけどね、いい?」

ゆっくりと、確かに紡がれた音。

その言葉は私がそれを欲しがった時に必ず言っていた言葉で。

まだ、覚えていたんだ。

心に優しい風が吹き込んでくると共に、言われようのない悲しい雨にも襲われる。

「さいごにね、」

最後なんて言わないでよ。












手を繋いで

3/21/2025, 6:41:13 AM