プレゼントの箱の赤い紐を紐解くと、その中には恋人が入っていた。
「メリー・クリスマス! プレゼントは私自身だよ」
と、ろくに着ないサンタコスのふしだらな姿でデコレーションされた、未成年の女子が笑顔を見せていた。
今夜はクリスマスイブ。男を喜ばせるために準備万端だ。
しかし、不運なことに、プレゼントの蓋を開けた男性は複数人いた。複数人が居合わせた。
「……いやちょっと待てよ」
男の一人が異を唱えた。
「俺の恋人をこんなにしたのはどこのどいつだ。ええおい」と。
恋人ヅラをしているが、これでもこの女子の恋人である。正直頭のレベルは低い方である。工業高校卒業後、将来の夢は行方をくらませた。
金髪にピアス。今年の夏に目一杯焦がした肌が、周囲を睨みつける。部屋の中でも黒いサングラスを掛けている。
たぶん女の子の遊び方も一人では無理だ。
きっと浮気している。そうに違いない。
「一人でやったんだろ」
そう心のなかで分析をしている男の一人が言葉を返した。
「ったく、姉はバカだからさ。ネットの浅い知識で、自分自身を……ってとこだろ」
「いいや! それは違う」
ガングロの恋人は言った。弟はこれを露骨に睨んでみせた。姉の年齢より5歳ほど年下だが、思いは強い。シスコンだからである。
「だったら誰がこれの蓋を閉めたんだ」
「それは姉だろ」
「話は最後まで聞けよ。……誰が赤い紐を結んだんだって言ってるんだよ。一人でこんなかに入るなら、別の誰かが蓋をして、紐を結ばなきゃ無理だ」
「そうですね」
もう一人が相槌を打った。
「そうじゃなければ、紐を解く必要はありませんから」
この男は姉の幼馴染である。
腐れ縁だと姉は言っていた。もうずっと脈なしだと分かっているはずだが、認められないでいる。
髪は当然のように黒い。
鉛筆、シャーペン、ボールペン。受験の色がこびりつく。
自分は高学歴であるのに、こんな、こんな……低学歴に靡くなんて、と思っているに違いない。
青いメガネを掛けており、真面目な大学生活を送っているらしい。酒は避けるように遠慮している気がした。
「こんなかに犯人がいるはずだ! 誰だ、誰がやった!?」
「俺じゃないよ」
「私もだ、誰がやった? 誰の差し金だ。小学生以来の幼馴染のこんな姿、もう見たくない!」
「おいしれっと付き合い年数でマウント取ってんじゃねー! たまたま隣同士だっただけだろーが」
「うるさい、幼稚園の頃のファーストキスは私だけのものだ」
(あ、あれ……?)
サンタ姿の女の子は、雑言飛び交う部屋の隅で一人取り残されていた。
実はこのアイデアの発案者は、本人ではない。
女の子が夜間、居酒屋バイトをしている人が立案した。彼女はプレゼントの中身が決められず、どうしようかと思って、コソッと相談していたのである。
ちなみにそのバイト仲間は男性だった。
だからこんなカオスとなっている。彼女とバイト仲間が咄嗟に考えた代物だ。
彼女は秘密を背負っていた。ここに恋人警察がいたら現行犯逮捕である。
それはバレてはならないと心得ている。
何としてでも自白だけはしたくない。でもどう逃げようか、考えあぐねている。
12/24/2024, 9:54:29 AM