遠い昔に見た朧げな記憶の中に、それはそれは広大な花畑があった。
見渡す限りの向日葵畑。右を見ても、左を見ても、前も後ろも、果てしなく続く花畑。
何故……そんなところに行ったんだっけ。確か、誰かと一緒に行った気がするが。場所も相手も思い出せない。
壮観な景色にうっとりして、1日中そこに居たような、居なかったような。
「あぁ……だめだね……この歳になると……」
まったく、思い出せないことばかりだ。
「ばあさん、なに落ち込んでいるんじゃ」
湯呑みを持って、爺さんが後ろから声をかけてくる。それで思い出した、あぁそうだ、爺さんと一緒に見に行ったんだっけか。
「昔に見た、向日葵畑のことを考えていたんだよぉ……。あれは、どこだったかね……」
「忘れちゃったのかい。あの向日葵畑は、ワシの土地じゃ。ワシがばあさんに贈ったものじゃよ」
「そうだったか、私に贈ってくれたんだったかい」
「そうじゃ。どうか死ぬまで忘れないでおくれよ」
爺さんにそう言われて、少しずつ記憶が鮮明になる。あの日、サプライズで連れて行かれた先に向日葵畑があって。そこで爺さんに手紙を貰ったんだ。
『999本の向日葵を贈る』と書かれていた。不器用なくせにロマンチックな爺さんらしくて、その気持ちが嬉しくて、この人と一生歩いていこうって決めたんだ。
「爺さんや」
「なんだい、ばあさん」
「いつまでも愛しているよ」
「な、なんだい急に! ……ワシも、ずっと想いは変わらんよ」
「いつまでも、私の運命の人は貴方だよ」
「それはそうさ。何度生まれ変わろうとも、愛しているからね」
999本の向日葵
――何度生まれ変わっても君を愛している
#花畑
9/18/2023, 8:27:19 AM