♯big love!
にこやかに手を振る彼氏を、エレベーターの扉がのろのろと隠していく。扉がぴったりと閉じ合わさったと同時に、私は溜め込んでいた息を吐き出した。部屋の中に入り、やっと荷が下りたというふうにドアにもたれかかる。そして腕の中の花束を見下ろし、途方に暮れた。
レストランで食事を終えた後、「君に贈りたいものがあるんだ」と、彼は突然そう言ってスタッフに目配せをした。前もって相談していたのだろう、スタッフは奥から花束を持ってくると、それを恭しく彼に手渡した。
「今日で出会って一ヶ月だろう? その記念日に」
はにかむように笑って、彼は花束を差し出してきた。他の客やスタッフたちの微笑ましい視線を受けながら、私は引き攣った口元を必死に吊り上げていた。
――まだ一カ月。デートだって二回しただけじゃない。どこが記念日なの。
しかも彼の情熱ぶりを表すような100本の赤い薔薇。ただよう濃厚で甘ったるい香り。学生時代に花屋でバイトをしていたからわかる。意味は『永遠の愛』……。
嬉しさよりも熱量の差に私はゾッとしたものだ。出会ったばかりの男に無理やり一生を誓わされたような気分。もちろん、ゆくゆくは、という願望はあったけれど、いまはお試し期間のつもりだった。相手もそうだろうと思っていた。薔薇の花束を受け取ったとき、うっかり声を漏らしそうになったけど、すんでのところで呑み込んだ私を褒めてやりたい。
――でも、いまなら言えるわ。
ずっしりと大きい花束を胸に抱きながら、ため息混じりに呟く。
たかがマッチングアプリ相手に、
「重いなあ……」
4/23/2025, 4:53:22 AM