能力者になりたい佐々木海星(偽名)

Open App

【突然の別れ】
僕は花奏からのラインを見て絶望していた。「余命」。その言葉が脳裏でチラつく。あぁ。彼女は末期がんだった。余命1週間。僕はその日、1日中泣いた。
海星「花奏。来てやったぞ?」
花奏「別に来なくてもいいのに。」
海星「とか言って、病院生活退屈で待ってたんとちゃうん?」
花奏「なわけねぇだろ、バカが。」
海星「うぅ、悲しいよぉ〜。僕のこと、待ってるのかと思って急いできたのに。」
花奏「とんだ勘違いだ。その頭取り替えたら?」
海星「君の頭ならGG。」
花奏「私の頭はバカにあげるものではないのでノーセンキュー。」
海星「そんな硬いこと言うなよ。俺が天才になったところ想像してみ?すごいイケメンで。ま、今もそうやけど。」
花奏「私の頭渡したところで作りは同じだから変わらないと思うけど。あとお前の顔面偏差値、模試の偏差値よりも低いけどな。」
海星「おだまり。僕の顔は超絶美貌なんだぜ。」
花奏「そういう妄想をしてらっしゃるのでは?」
海星「そんなはずはありません。きっとありません。」
花奏「絶対じゃないんだ、そこ。まぁそんな事はどうでもいい。なんで来たんだ?」
海星「ん?だって、僕たち親友だろ?長年一緒に過ごしてきたじゃないか?それ以外の理由とかある?」
花奏「さぁ?私にはわからんな、その感情は。人間の心を捨てた者なんで。」
実際にはこう言ってるが、友達に対してはとても自然的だ。あるのではないかと錯覚するぐらい。口だけかもしれない。
花奏「はぁ、病院生活って不自由すぎる。こんなんイギリスとインドやん。」
海星「さすがにそれは侮辱しすぎやろ。現在はそんな関係ないから。」
花奏「でも、ホンマにやることがない。おもんない。残り時間の前に過労死するで。」
海星「それはさすがに早すぎやしませんかい?そんなときには僕が来るさ。学校終わりの放課後、直行で行ってやる。」
花奏「死ぬとわかったから勉強もしなくていいし。時間を待つだけか。お前が来るまで何しとけって言うねん。」
海星「じゃぁ、読書の感想でも話してくれ。この本渡すから、内容も話してくれよ。毎日新しい本持ってくるから。」
花奏「なら、いっか。」
と言って微笑む彼女。あと何日話せて、声を聞けて、顔を見れて、笑っていられるんだろう。
海星「あ、もうこんな時間。今日塾なんよ。また明日来るね。じゃ。」
そう言って病院を後にした。
 次の日。
海星「へーい、今日もやってきましたよ?そんな話題持ってきてないっすけど。」
花奏「はいはい。讀書の感想聞きたいならさっさと座れ。」
海星「はーい。」
そうして、彼女の感想話を聞いた。ずいぶんと理解度が高い。僕はこの本、1週間くらいかけて読んで理解したんだけどなぁ。一通り聴き終えた僕は花奏に言葉をかけていた。
海星「すごいな。1日で理解仕切るなんて。僕やったら何日も読まんとわからん。」
花奏「私は頭が良いからな。それに時間はお前よりもある。」
海星「ヘイヘイ。知ってますよ。そういえば僕以外に誰か来ないの?」
花奏「親ぐらいかね。明日は友達来るけど、まぁ、お前が来たいならくれば?私は強制しないよ。」
海星「そんなこと言って、僕がおらんかったら寂しいだろ?」
花奏「そんなことはない。断じてない。」
海星「まじかぁ。んじゃ、僕は帰るよ。また明日。」
花奏「また明日。」
 次の日も、また次の日も同じような流れだった。読んだ本の感想を聞き、少し雑談をし、笑い、見栄を張る。充実した日々。一番早く感じた。もう何日目だろう。そんなことを考えていたらついに7日目が来ていた。
海星「今日はつきっきりでおるからな。一緒に夜更かししようぜ。」
花奏「なんで夜更かししなきゃならんのだ。安心して眠れんわ。」
海星「お前は今日は寝たらだめ。古典でいう『や、〜な」やな。」
花奏「寒いんすけど。まじで凍えるわぁ。」
海星「先に冷たくならんといてや。」
花奏「それは無理な話やな。」
海星「何する?」
花奏「ゲーム🎮。」
海星「いいよ。やろうか。」
僕らは静かな病室でゲームをした。1時間が経過した頃。
花奏「もうそろそろでやめるか。」
この試合が最後だと悟った。
海星「うん。そうだな。今は…9時じゃん。早すぎん?」
花奏「しょうがないよ。ゲームというのは娯楽なんだから。ふぅ、おわり。」
海星「次は僕の話でもしようか?」
花奏「頼むわ。」
僕は多くの昔話をした。花奏もその話に時々笑い、ツッコミ、たたき、いろんなことをしてくれた。
花奏「ずいぶんと長話したもんだ。国語最下位のくせに。」
海星「これでもお前と同じ高校に行ったんやからな。そこだけ褒めてくれ。」
花奏「ヨクガンバッタネ。」
海星「すげーカタコトですよ?もっと愛情込めてください。」
花奏「無理な話だ。今ものすっごく眠いんやけど。こんなに夜更かししたの久しぶりや。もう一時で。日が変わってるし。寝まーす。」
海星「じゃぁ、僕花奏の隣で寝よ。」
花奏「なんでそうなる?やめろ。バカが移る。」
海星「いいじゃん、最後かもよ?」
花奏「私には抵抗する手段がありません。」
そう言いながらもよってくれる。
海星「お休み。」
花奏「お休み。」
 数時間後。
花奏「なぁ、海星。ちょっと起きてくれん?」
海星「ん?どうした?トイレか?」
花奏「なわけねぇだろバカ。私なんか浮いてる感覚がする。」
海星「え?」
花奏「もう、ゴールが近づいてるのかもしれないな。」
海星「そうな…。僕はまだ、」
花奏「お前の気持ちもわからなくはないが、しょうがないことだ。変えられないんだ。このことに関しては。」
僕は泣き出していた。これが最後だというのがわかった。
花奏「そうなくなって。天国に行っても見守ってやるからよ。」
そう言って、抱きしめてくれる。初めてだ。その妙な温もりに落ち着く。
花奏「お前の人生は、私だけじゃない。お前の性格なら色んな人と関われる。…長く生きろ。そしてまた、今日みたいに長話をしてくれ。色んな話を持ってきてくれ。私は期待して待ってるから。ほら、最後に笑顔をみしてくれよ。安心して眠れないだろ?」
そう言われたので僕は無理やり笑顔を作った。目も腫れ顔が赤いだろう。
花奏「うん。今のお前はかっこいいぞ。」
海星「お前と過ごした時間はとっても楽しかった。何気ない日常だってそう。それが僕の宝物だよ。ゆっくりお休み。」
花奏「あぁ。お休み。また、何十年後に。」
言い終えた花奏は時間が停止したかのように動かなくなった。
海星「ねぇ、花奏。ねぇってば!起きて!起きてよ!もっと一緒に時間を過ごしたいよ!行かないでよ。お願いだから…。」
そんな願いも虚しく、花奏は目を開けてくれなかった。
 花奏がなくなって、数年。僕は大学生になっていた。大丈夫。僕の心の中では花奏は生きてる。そして高校生の話もいっぱいある。早く話したいなぁ。そして僕は歩き出した。

5/19/2024, 2:03:02 PM