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黄昏時。一人空を見上げては、ぼんやりと眺める。視界に映るのは無数に光る星と強い紺色。今日は晴れているなァ。そう考えてふと俯いてしまう。
…私は一体、いつまでここにいられるのだろう。
半月ほど前、同期だった羽依さんが姿を消した。鬼舞辻無惨を討ったその日のことであった。異変を感じた私は数人の隊士を連れて羽依さんの屋敷──天屋敷を訪れた。が、もぬけの殻。置いてあるものは普段通り。隊服は日輪刀もある。なのにそこに羽依さんだけがいなかった。皆は行方不明だといい、傷の癒えた者は捜索に出るなどしていた。鬼殺隊の中でもかなりの騒ぎになったように思う。
…けれど私は知っている。屋敷の中でぽつんと鎹鴉が覚悟を決めたように私たちを待っていたことを。羽依さんはもうこの"世界"にはおらず、あるべき"世界"へと帰ったのだろうことを。
羽依さんと私はこの世界に本来あるべき存在ではなかった。私たちはこの"物語"の行く末を知っている異端者、紛い者。ひょんなことからお互いがそういう存在であると認識して話し始めたのは一体いつだっただろう。いつかこの世界から消されちゃうかもね、と笑っていた彼女の笑顔が私は今でも忘れられない。せめて私にくらいは言っていてほしかった。どうして一人で消えてしまったの?
…分かっている。たられば話なんて、所詮妄想だ。かもしれない、なんて言い続けても実現することなんてない。それでも、それでも。
「私を、この世界に置いていかないでほしかったな…」
「またこんなところで星を見てるのか?」
ふと隣で声がした。驚いて隣をぱっと見ると花札をつけた少年がこちらを見ていた。赤黒い髪は夜風に吹かれ靡いており、隊服に市松模様の羽織が薄暗い中でもよく見える。
「…炭治郎」
「小夜はほんとに星が好きだなぁ」
……続かない。
『ただいま、夏のキミ』
8/5/2025, 6:58:42 AM