♯星明かり
ひとは死んだら星になって、地上を明るく照らしてくれるの。――私たちが迷わないように。
いまはいない母の言葉を反芻しながら、俺はベランダで煙草をくゆらせていた。ゆらゆらと立ちのぼる灰白色の煙が静かに夜空へ溶けていく。
星は見えなかった。街灯、車のライト、ビルの照明……地上から射す人工的な明かりは、星の淡い光などたやすく呑み込んでしまう。空に昇っていった何千、何万、何億という導きなど、もうこの国には必要ないとばかりに。
星はただのガスの塊で、輝くのは核融合をしているからだ――母の言葉にそう返しそうになったけど、俺はぐっとこらえた。父のことを思い出して涙ぐんでいた母。それでも、俺の胸に小さな灯をともしてくれた言葉。その小さな灯は、いまも心のすみっこで、俺の胸を暖めている。
ちらりと後ろを振り返る。生まれたばかりの幼い命は、妻の腕に抱かれてすやすやと眠っていた。
――あの子が大きくなったそのとき、はたして星は見えているだろうか。
どうか見えていてほしい――と、俺は心から祈った。
4/21/2025, 9:56:46 AM