はるさめ

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君は幸せになるのが下手だねぇ。

そう言って眉を下げて笑ってくれたバイト先のお兄さん。

お兄さんからすると、私はものすごく利他的な人間に見えるらしい。

残業を手伝ったり、自分の仕事以外の業務も引き受けたり、ときどきお菓子を配ったり。
私は好きでそうしているというか、そうするのが当たり前だと思っていたから自分のことを大変だと思ったことは無かった。ましてや、不幸だとも。

結果的に人のために動いてしまっている私が便利屋と言われていることも知っていたけれど、そんな言葉を投げかけられたところで揺らぐ心なんて私には無かった。

悲しむ心が無いのだから、喜ぶ心も無い。
ありがとうという言葉が無くても、驚くくらいに私は平気だった。

そこまで話して言われたのが、幸せになるのが下手だねぇ。だった。

お兄さんは言う。親切っていうのは、自分の良心から削りだされて生まれているものなんだと。良心にも限りがあって、どこかで補充しないと底をつくのだと。そこで補充の役割をするのが他人からの感謝で、多くの人はそれで満たされてまた人に親切にするのだと。

一切見返りを求めない奉仕の心だって素晴らしいとは思うけれど、与える側がまず幸せでいられなきゃ。他人を幸せにするために自分が不幸になるなんて、本末転倒でしょ?
で、君の生き方は利他的でひどく自己犠牲的だ。そしてすり減る自分にも気付けていない。だから幸せになるのが下手だってことだよ。

お兄さんは柔らかく包むような声で続ける。

自分の心もちゃんと大切にしなさい。他人を幸せにするのと同時に、自分も幸せにするんだよ。
そうやって、上手に幸せになりな。

そうしてお兄さんは、私の目元に優しく触れた。

私の心の雪解け水は、とめどなく目元を濡らし続けていたけれど。

3/31/2023, 5:46:30 PM