遠雷
遠雷が鳴った時、あなたは身体を起こした。
窓の向こうをじっと見つめる横顔は、まるで呼ばれるのを待っているみたいだった。
ねえ、と私は、あなたを抱き寄せる。
「私たち、まだ愛し合っている最中だよ」
次の瞬間、暗い部屋を裂くように稲妻が光る。その鋭い光はあなたの本当の姿を照らし出した。
怖くはない。その姿こそ、私が愛したあなただったから。
私たちを咎めるかのように、窓の外では雷雨が激しさを増していた。でも私たちは懸命に熱を交わしあった。
私は知っていた。夜明け前にあなたは去ってしまうことを。
雨の音にまじって私が聞いたのは、雷鳴だったのか、それともあなたの咆哮だったのか。どちらでも構わない──
空一面を不穏な雲が覆っている。
遠くに轟く音を聞いて、私は嬉しくなる。
だけど子供は、灰色の重たい雲に覆われた空が恐ろしいらしい。不安げに私を見上げて聞いた。
「お父さんはどこ?」
あなたによく似た子供だ。私は子供を抱き上げて静かに答えた。
「お父さんはね、あの雷の向こうにいる。お父さんはドラゴンだから大地では生きられないの」
子供はじっと窓の外を見つめた。
閃光が走る。
重々しい空は一瞬白くなり、翼を広げたあなたの影が見えた気がした。
8/23/2025, 10:17:49 PM