いろ

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【快晴】

 カーテンを開ければ、冴え渡るような青空が窓の外に広がっていた。雲一つ存在しない、一面の青。晴れやかで美しい光景のはずなのに、何故だかその澄んだ青さが、私の胸をひどく締めつけた。
「白鳥は哀しからずや空の青――」
 君が好きだと言っていたフレーズを、思わず口ずさんだ。ああ、この続きはなんだっけ。いつも呆れたように教えてくれた君の声は、もうどこにもない。
 ただ、そう。結局僕たちは世界に一人きりなんだよと、そう諦めたように微笑んだ君の横顔を、ぼんやりと思い出した。
 私はほんの少しでも、君の救いになることができたのだろうか。今日とよく似た快晴の日、長い闘病の末に眠るように旅立っていった君の、手のひらの温度が指先に蘇った。
 君と出会った中学生の頃の教科書を、本棚から引っ張り出す。パラパラとめくれば、目当てのページはすぐに見つかった。
(――海のあをにも染まずただよふ)
 印刷された活字を、そっと指でなぞった。波の音をイヤホンで聴きながら、病室の外に広がる青空を眺めていた君は、果たして何を思い、何を願っていたのだろうか。
 今となっては誰にもわからない答えを夢想しながら、君が愛用していた青い栞を、手元のページへと挟み込んだ。



(若山牧水『海の声』より引用)

4/13/2023, 1:57:20 PM