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「基」
針の落ちる音が聞こえそうなほど静寂が支配する部屋に、最愛の名を呼ぶ私の声が響いた。
いつもは月島と呼ぶ私が初めて下の名を呼んだことに驚きを隠せないように、その坊主頭は奥に碧を湛える瞳を見開く。
「はじめ」
確かめるように、その名の温度を味わうようにもう一度音にする。
はい、と柔らかく微笑んで、基が暖かい返事を寄越した。
「あなたに呼ばれるなら、この名も悪くないですね」
昔は嫌いだと言っていた己の名を、慈しむように笑う。
「ね、音之進さん」
そこにあるのはきっと、愛以外の何者でもなかった。

ゴールデンカムイより鯉月です。

君の名前を呼んだ日

5/26/2025, 11:30:35 AM