『愛情』2023.11.27
相手に求め続けるものが恋で、与え続けるのが愛なのだと彼は得意げに言った。
なんの前振りもなくそんなことを言われたものだから、こちらもどう対応していいかわからず、適当な相づちを打つことしかできない。
そして続けて、
「恋は消えるときに二通りの消え方がある。一つは心が枯れていくこと、もうひとつは……愛に変わったとき」
どうだ、とばかりにドヤ顔をしたので、ああこれは何かの言葉を引用したんだなとわかり苦笑した。
「怒られんで」
「怒られる? 俺が? 誰に? 心外だなぁ」
目を丸くして彼はぺらぺらとそう言って、コーヒーを美味そうに飲んだ。
「いい曲だよね」
と、ついに白状して、軽やかに笑う。気になったので調べてみると、メガネがチャームポイントのシンガーソングライターの曲だった。
恋とはなんぞや、と血液型をまじえて歌っているコミカルな曲だが、後半はラブバラードとなっている。彼が言った言葉は、そこから引用したものだった。
なんとなく、オレに愛情表現をしているのは分かった。彼は照れ臭いのか遠巻きになにかの言葉を引用しては、好きだなんだと告げてくる。
どうせなら、ストレートに好きだと告げてくれたらいいのにと思う。
でも、そんなこと照れ臭いから言ってやらない。
ありったけの愛情を与えてくれているのが肌で心で感じるから。
それだけでいい。
11/27/2023, 2:17:16 PM