二人は幸せだった。
男は女を守るために仕事をし、休みの日は女のために費やした。
女は男を支えるために家事をし、日々を彩ろうと努力した。
それはそれは長い年月を共にし、お互いに信頼していた。
だが、お互いに想いが合わないこともあった。
男は子どもが欲しかった。
女は早く死にたかった。
男は「子どもを産む勇気がない」という女をそれでも愛した。
女は「毎日、君を楽しませるから」という男の言葉を信じた。
お互いに努力していた。身を削り、心を壊し、それでも一緒に居ることしか選択肢はないと思っていた。
共依存だった。
男は女がいないと仕事をする意義を無くし、
女は男がいないと生活できなかった。
お互いに逃げ場などなかったのだ。
ある日、男が言った。
「別れよう」
その時、女は言った。
「そうやって捨てるのね」
それ以降この男女は再会することなく生涯を終える。
残った男は思った。
「彼女が生きてさえくれれば俺はいい。」
残された女は思った。
「あんな男と別れて正解だった」
お互いに深い傷が残ったが、これ以上その傷を掻きむしることは無かった。
男は女のために別れ、女は男のせいで別れたのだ。
傷を深く傷つけ合わないように。
『ハッピーエンド』
3/29/2023, 10:38:26 AM