天を統べる奇跡はとうに消え失せた。時代を重ねるほどに、1人また1人と同族たちは自然と数を減らしていった。時に絶望し、時に見限りその奇跡を散らしていく。舞い失せていく羽の1つ1つが奇跡の残滓になり、溶けるように消えていく。
『最後の一人になった感想は?』
『本音をいえば寂しいかな。でも、私が最後なら後のことを気にしなくていいのは気が楽でいいよ』
なんのてらいもなく口にする彼女の横顔は、どこか憂いを纏っていた。見た目のうら若き姿に反し、彼女の内側にはこれまでに同族たちが積み重ねてきた幻想が蓄積されている。しかし、その奇跡を今を生きる人々はとっくに忘れている。忘れられることで、奇跡はその強度を失っていくのだ。
屋上の手すりに手をかけると、彼女は助走もつけずにヒラリと飛び越える。無論、その先には足場はない。初めてそれを目にした時、咄嗟に目を覆ったことも今では懐かしかった。彼女は落下することも無く、まるでそこに佇むように風にその身を任せていた。
『びっくりした?』
イタズラに微笑むその顔に、肩を竦めて答えた。
『全然?』
4/29/2024, 12:37:49 PM