冷瑞葵

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光輝け、暗闇で

 真っ暗闇の世界。自分の体の形すら確かじゃない。
 自分の手の形はどうなっているのか。今、目の前に自分の手を持ってきているつもりだけれど、それは私の妄想であって実際は目の前に手などないのだろうか。そもそも私の体に腕はあるのだろうか。私の体が実体を持たないものだったらどうしよう。こんな暗闇でそんな心配をしても意味などないか。
 何もない。記憶も確かではない。私は誰で、何者で、なぜここにいるんだっけ。あの光輝く、生命力に満ちた世界は何だったっけ。私はあの世界に生きていたのではなかったか。なぜ、私は今ここに。
 何もないはずの世界で、目を凝らした私の目に限りなく深い闇が映った。闇に包まれた無の空間の中でもその黒は一層際立っていた。線形の穴のような無の空間は秩序を持って、意味を私に与えてくれた。
「光輝け、暗闇で」
 あえて文章をわかりやすく直すとしたらそのような内容になるだろうか。これが、私に課せられた任務なのか。
 そのとき、私の頭の中に一つの言葉が舞い降りた。遥か遠い過去――いや、未来で聞いた言葉。逆行転生。
 そうだった。私の生きていた未来は滅亡の危機に陥っていた。だから私はここに来た。第二の太陽となり世界を照らすために。
 さぁ、今こそ自分の存在がハッキリとした。存在しない目の前の手の先に無限の未来が見える。何十億年先の未来を救いに行こう。私よ、光輝け、この暗闇の中心で。

5/16/2025, 4:27:44 AM