みんみんどり

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社会人の話

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関東住みだった私たちだったけど、年度末が近くなった今、人事異動が発表された。
私の勤務する会社自体、全国的に展開されている企業であることもあってどこに飛ばされるか本当に分からない。ここの辺りで、とは上の方に言っているが。

「──以上です」

私は、隣県への異動となった。

関西に行く、という程では無いが、発表された時とてつもなく寂しいという感情が波となって押し寄せてきた。
家族とだいぶ離れることになるのもあるが、一番は…

──────

「えぇ、ほんと?それ」
「うん…」

大学生の時に付き合い始めた彼氏。そろそろ4年になるといったところか。
実際出会ったのはバイト先だったが、今は彼は大学院生、私は短大を卒業して社会人になっている。
2人の中では、「そろそろ同棲するのはどうか」という話が出そう…という雰囲気だった(と思う)。
ここまで言えばわかると思うが、私が寂しいと思った核心はここにあった。

「だからね、直接会える機会がめっきり減っちゃうかもしれないなって」
「こうやって電話するのも大変だしね」
「断っても無理そうだったしなぁ…」

今回の人事異動は結構大きなプロジェクトのチームで動いているため、私だけここにいるというのも気が引ける。しかも、まだ就職して3年程しか経っていない私だ。

「離れちゃうの、寂しい」
「そうだよね…しかも一人にさせるのも心配」
「お母さんみたいなこと言うじゃん」
「心配なのは心配なんだよ」
「まぁ仕方ないよねぇ」

異動先には会社の人以外知り合いは居ない。私からすると「未知の世界」なのだ。大学も県内だったし、心配する気持ちは拭えない。
やはり、行く以外の選択肢はないのだろうか。
すると、彼が電話先で「あっ」と頭の上に電球がぴこんと出るように言った。

「あのさ、その異動って来年度からだよね?」
「まぁ、そうだけど」
「…俺も着いてっちゃだめ?」
「…はぁ?」

いやどういうことだ。
大学に通うのを辞めると言っているのとそう変わらないだろう。頭の理解が追いつかず、ショートしそうになる。

「え、どういうこと?」
「俺、今24でしょ?大学院2年目ね、浪人してないから」
「そうだね」
「修士課程、って知ってるでしょ」

確か、院生を2年間過ごす過程だったはず。
そうなると…

「…今年で卒業、ってこと?」
「そゆこと」

なるほど、と言いかけたところで1つ引っかかることがあった。
彼の就職先であるはどうするのだろうか?
就活はしていた所を見たことがない気がする。ずっとバイトしていたとしか言えない。
どうするのか聞くと、あっけらかんとした声で話してきた。

「そっちにさ、俺の知り合い?って言うか、兄ちゃんの友達の会社があんのね」
「そうなんだ、凄いね」
「凄いよね〜。でさ、そこワンチャン俺の事雇ってくれるんじゃないかと思って」
「そう簡単にいく?」
「って思うじゃん?確か俺の専攻科目さ、そこの会社で結構使えると思うんだよね」
「はぁ…」

如何せん、無理やりすぎではないか。
でも彼なりに一緒にいる提案をしてくれたのは、素直に嬉しかった。

「まぁ連絡してみないとわかんないけどね。今度聞いてみる」
「分かった、雇ってもらえるといいね」
「──ってことで!」

うぉ、いきなり声でかくしないでくれ。思わず可愛くない声でそのまま「っうぇ」と言ってしまった。

「何」
「何?じゃないでしょぉ」


俺たち、晴れて同棲、ってことでしょ?


彼の言葉が、きらきらと輝いて聞こえた。
そっか、同棲か。一緒に、住むんだ。住めるんだ。

「これでこうやって電話しなくてもずっと話せるようになるね」
「でもまだ決まったことじゃないでしょ」
「俺の方でだめでも、絶対やるから」
「さすがにそれは心配だから先送りにするよ」

一度遠くになりかけた私たちの距離が、ぐっと近づいたように感じた。
家族や友達と離れてしまうことは悲しいけど、ここから遠く離れた地で新たな生活を彼と送れることが、私にとっての最大の救いがすぐ近くにいてくれることが、何よりも嬉しかった。

「…ありがとう、一緒にいるって言ってくれるの凄い嬉しい」
「ううん、俺も嬉しいことだし、こちらこそよろしくねって感じ!俺もありがとー!」

声から分かる、にへらと笑う彼の顔。
数ヵ月後には直接見れるような距離感であることを願うばかりだった。



20250208   【遠く…】

2/8/2025, 1:34:26 PM