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 押入れの奥を整理するなんて、小学生の頃以来だろう。埃を吸わないよう息を止めて動かしたのは、ピンク色に金ピカが散りばめられた可愛らしい宝箱だった。
「あら、懐かしい。」
 母が言った。開けると、プラスチックでできた宝石のぶら下がったネックレスや、大きな真珠もどきのブレスレットが、箱いっぱいに詰まっていた。
 あの子と身につけて遊んだっけ。どれが似合うかなってお互いの選んで、鏡の前でポーズをとって、お姫様ごっこをしたな。
 思い出しながら、『捨てる』袋に仕分けをした。
「捨てちゃうのね。まあ、今の貴方にとってはガラクタかしら。」
 母が言った。概ね合っているけれど、少し違う。
 今の貴方にとっては、じゃない。昔の私にとっても、これはガラクタだった。
 あの子が笑ってくれるから、喜んでくれるから、あの子と遊んでいる時だけ、これらは宝物になれた。今の私にとっては、その思い出が宝物だから、いいんだ。
 

11/21/2024, 1:09:01 AM