街の明かりに照らされて長く伸びる、ひとつの影。
「じゃ、またな。」
笑顔で手を振るソイツにつられて、俺も少し口角を上げる。
「…あ、そうだ」
また、と言って背を向けて歩き出したにも関わらず、ソイツはなぜかこちらに踵を返してきた。
俺の目の前で止まったかと思えば、急にしゃがみこむ。
「これ、お前好きだっただろ?わざわざ買ってきてやったんだから感謝しろよな」
ソイツは俺の足元に、夏限定のスイカ味の炭酸を置く。
普通に渡せばいいじゃん、とは言えない。
そんなこと出来るわけないから。
置かれたソレを拾おうとするが、まだこの視界に慣れることが出来なくて空を切る。
ただ、周りの空気には触れることが出来た。
夏とはいえ今は日差しが無いおかげか、キンキンに冷えているようだ。
ケチなやつだったから今まで奢ってくれることなんかなくて。まさか今になって買ってきてくれるとは思わなかったけど、でも、
「……俺、もう飲めないからさ、別に他のでも良かったんだけど。」
そんなわざとらしい文句も、もうお前には聞こえやしないから。
@寝華
#街の明かり
7/8/2022, 10:19:06 PM