しょめ。

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【⠀No.4 鏡 】


私が幼少期に魅入ってしまった、短い黒髪のお姫様。
大好きで憧れだった彼女に少しでも近づきたくて、
長かった黒髪をバッサリ切り、赤いリボンを巻いて。
黄色と青のドレスを身に纏い、洗面所の鏡に問いかけた。

「鏡よ鏡、この世でいちばん美しいのはだあれ?」と。

中学生になってから伸ばし続けた黒髪をバッサリ切って
鏡の前にたった時、ふとそんなことを思い出した。
寝癖でぐちゃぐちゃな髪をヘアアイロンで内巻きに整えて、
髪の形にフィットするよう丸くした掌で毛先を触ると、
たまたま近くにあった赤いリボンを巻いてみて。
そして鏡に問いかけてみる。

「鏡よ鏡、この世でいちばん美しいのはだあれ?」
「それはこの家のお姫様である貴方です。」

突然後ろから顔を覗かせた童顔な王子様はそう言って、
真っ赤になった私の顔を鏡越しに見つめる。

「なら、起こしてよ。毒林檎を食べて眠りについたお姫様
である私を。」

もう1年経つのに口付けすらしてくれない王子様はきっと、
私が自分から毒林檎を食べて強引に迫っても抗えない。
私の言葉を聞き、彼はふわっと微笑む。

「分かりました、俺だけの綺麗で可愛くて我儘なお姫様。」

少し心臓が高鳴るのを感じながら、
私はゆっくりと視界を閉ざす。
唇に柔らかく温かい感触が伝わると、1年間抱いていた欲望の毒林檎みたいな気持ちが無に返り、触れる幸せが目覚めた。私だけの王子様の、甘い口付けで。

私は心の中で、鏡に問う。
「鏡よ鏡、この世でいちばん幸せなのはだあれ?」
それはきっと、優しい王子様に愛された、私なんだ。

8/18/2024, 1:06:33 PM