いぐあな

Open App

300字小説

妖精のテラリウム

 叔母はよく透明な瓶に草花を植え、小さな家を置いて、テラリウムを作っていた。そして、それを山や林に持って行っていく。
「こうするとね、住処を追われた妖精が瓶の中に引越しするのよ」
 そう言って、温室に幾つもの瓶を並べて、うっとりと眺めていた。

 叔母の家に泊まったある夜中。私は窓の開く音で目を覚ました。
『起きてる?』
『寝てるよ』
 吹き込む夜風に流れる小さな声に必死に寝たふりをする。
 翌朝、目覚めると机の上に置いておいた飴が全てどこかに消えていた。

 以来、私は叔母の家に泊まるときは、甘いお菓子を持っていって、寝るときは窓の側に置いている。
 あの温室とテラリウムの瓶は叔母に何かあったとき、私が受け継ぐ約束をした。

お題「透明」

5/21/2024, 11:02:21 AM