まこここ子

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 気付けば夜だったらしい。カーテンを開けて外界と繋がるような気力はなかった。今日も手元の小さな画面で私の世界は占められていて、残りのスペースをトイレと保存食とかが埋めている。
 薬が効くようになってから、以前より増して動けなくなったような気がする。前まではなんとか、体を濡れタオルで拭くくらいのことはできていたのに、今はもう、体を這うハエトリグモをはらう気力もなかった。画面の向こうで流れる別次元を眺めていた。文字による他者の意思の現れを見ていた。悪意を咀嚼して、でも嚥下ができず、黄色い胃液と共に水に流した。
 哀れみの目は気にならなくなった。考えられなくなった。薬が不安を抑えるために、思考回路を緩めて、ふわふわと浮かばせ遊んでいる。不安感を思考力と共に消したから、なにもなくなった。人間は考える葦であると誰かが言ってた気がするが、考えなくなったわたしは人間なのだろうか。葦を名乗るべきだ、というところで思考伝達は止まった。
 間違いなく、不幸ではなかった。間違いなく、幸福ではなかった。灰色のカーテンが今日も開かないでいた。

12/2/2024, 11:17:05 AM