ミミッキュ

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"月夜"

 入浴を終えて日記をつけた後フルートと《overtuRe》のページを一枚の横長の紙に纏めて印刷したプリントを手に処置室に入り、スイッチを押して室内の明かりを点けて窓辺に立つ。
 ふと窓の外を見上げる。
 よく晴れていて、綺麗な月明かりが夜闇を照らしている。
 だがその月はとても細い。そのせいか、月明かりがあると言っても、他の明かりが無いと暗くて動きづらい──処置室の明かりを点ける前はとても暗く、月明かりも微かにしか無くて少し怖かった──。
──三日月より細い気がする。この月にも、名前があるのか?
 気になってポケットからスマホを取り出し、検索タブに【今日の月】と入力して検索マークをタップする。
 一番上に出てきたサイトをタップすると、すぐに出てきた。
「……?『有明月(ありあけづき)』……?聞いた事ねぇ名前だな」
 初めて見る名前に首を傾げる。そもそも読み方は『ありあけづき』で合っているんだろうか。
 画面をスワイプしてスクロールすると、その他の月の名称も出てきた。三日月はそもそも新月の後に見られる月の形で、新月の手前であるこの月と全く違うものらしい。
 いくら記憶を遡っても、この名前を理科の授業で習った記憶はおろか、教科書でこの名前を見た記憶すら出てこない。
──まぁ、ここまで細かな事は流石にやってないか。
 有明月の他にも、見た事の無い名前があった。
「なんて読むんだ、これ?『さらまちづき』?『こうたいづき』?」
──後で調べるか……。
 説明には、満月を過ぎた月の名前らしい。
 ちなみに【更待月】と書かれている。
「みゃあ」
 不意に足元から鳴き声をかけられ、視線を下げるといつの間にかハナが足元に来ていた。
「みゃあん」
 そこで「あっ」と声を出し、ここに立った目的を思い出す。
 窓辺を譜面台にしてプリントを広げフルートを構えると微かな月明かりの下、練習を始めた。

3/7/2024, 1:43:49 PM