かも肉

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作品59 誰かしら?



 一方的に電話が切られる。
「……誰かしら?」
 しばらく考えてからやっと、あなただとわかった。

 久々にあなたから電話がかかってきた時、一瞬誰だかわからなかった。公衆電話からだったんだもん。でも、声で思い出せた。私と話すときだけ、少し声が上ずっちゃうあなたの癖。最後に会ったときと全然変わってなくて、本当驚いた。
 今、どこにいるのだろう。電話はすぐ切られちゃったけど、この街で動いてる公衆電話といえばたった一つしかない。電話を切られてからものの数秒で、居場所はわかった。
 きっとそこに向かえば、あなたに会える。
 そう思って、タバコの匂いがついたジャンバーとスマホを手に取り、それ以外は何にも持たず、外へ飛び出した。外は少しだけ、寒かった。

 数分かかって、目的地に着く。いつもならもっと早くついたのに、今朝降った雪のせいで遅くなってしまった。そのせいか、目当てのあなたはいなかった。まあ、そうよね。こんな時間経ってるんだもん。居たほうがおかしい。
 その場にしゃがみこんで、荒くなった息を整える。久々に走ったから、体中が痛い。なんとなく、時間の流れとか、老いみたいなのを感じる。
 息を深く吐いて、深く吸う。頭に酸素が行き渡る。何度も何度も繰り返す。心臓を落ち着かせるにはこうしたらいいって、あなたが教えてくれた。
 おかしいな。
 あなたを思い出す事なんて、今まで全くなかったのに。きっと、声を聞いたからかな。
 しばらくしてから立ち上がる。
 落ち着いたらなんだか、無性にタバコを吸いたくなってきた。癖でジャンバーのポケットに手を入れる。手探りで探してみるが、見つかったのは予備のライターだけだった。
 ああそうだ。タバコ、やめようとしたんだった。ちょうどいいタイミングだったから。だけど、どうしよう。
 ……今日ぐらい、吸っちゃうか。
 いつもは決めたことをちゃんと守るけど、今日だけはなぜか、破ってしまおうと思った。
 頭の中で地図を開く。たしか近くにコンビニがあったはず。そこで買おう。
 喫煙所は?
 あそこしかない。
 財布の中身を確認しながら、ゆっくりと、歩き出した。

 ドアが自動で開く音。ありがとうございましたーという店員さんの機械的な声。
 欲しかったタバコはなかった。当然だ。あのタバコはもうとっくの昔に製造終了していて、買いだめもつい先日無くなったから。だから、やめようとしたんだ。あのタバコ。昔の淡い思い出が詰まってて、好きだったのにな。
 少し、寂しくなった。

 タバコと一緒に買った、ラスト一個だった肉まんを食べながら、喫煙所に向かう。
 この街唯一の喫煙所。
 全く、喫煙者には肩身の狭い世の中になったものだ。タバコの値段はどんどん高くなり、吸える場所も限られ、何故か若者からはかっこつけだと嘲笑われ。
 ほんと、嫌な世の中だ。これのおかげで生まれる縁があるってことなんて、みんな忘れてしまったのか。あなたと出会ったのも、これがきっかけなのに。なんか、悲しいな。
 そうこう考えている間に肉まんはなくなり、気付けば喫煙所についていた。
 副流煙だか文句言って作ったくせして、この喫煙所には天井はない。ただ、隔たりだけがある。果たしてこれに意味はあるのだろうかと、見るたび疑問に思う。まぁいいか。さっさと吸って、さっさと帰ろう。
 立ち止まって肉まんのゴミをレジ袋に入れ、タバコとライターを手に取り、喫煙所に近づく。
 ふと、中から煙の匂いがした。不思議なことに、何度も何度も吸った、もう売ってないはずの、あのタバコの香りに似てる。まだ買い溜め持ってる人がいたんだな。羨ましい。
 そういえば、たしかあなたもこのタバコ好きだったな。懐かしい。
 もしかして、中にいるのがあなただったりして。
 そんなことが脳裏をよぎった。そんなわけ無い。だけど、せっかくだ。試してみよう。
 中に入ろうとした足を止めて、一度外のベンチまで出る。スマホを取り出して、電話をかけてみた。
 プルルルル、プルルルルとなる、電話の音。一回、二回、三回……。六回目のコールで、その音は途切れた。

 『もしもし?』
 その声は、電話の向こうからも喫煙所からも聞こえた。驚いて、一瞬声が出なかった。
 中にいるのは、紛れもなくあなただ。
 何を言おう。とりあえず、同じように返しとくか。
 「もしもし。」
 電話の向こうから、息を吸う声が聞こえた。驚いて声が出ないと見える。私と同じ反応だ。そんな反応してくれたら、ちょっとだけ嬉しくなっちゃう。
 電話をつなげたまま、喫煙所へ入る。そこには一人だけ、スマホを持つ手が震えている人がいた。後ろ姿だけど、間違えるはずがない。
 間違いなく、あなただ。
 「びっくりした?」
 精一杯、声に感情を乗せる。あの時みたいな若々しい声を。
 「さっきのお返し。」
 あなたが振り返った。
 「久しぶり。」

 次にあなたが発した言葉は、久しぶり!でも、驚いたよ……でも何でもなく、
「あっつい!」
だった。すっかり短くなったタバコの火が指に伝わったらしい。思わず笑ってしまう。
 嗚呼。この空気。この空間。この反応。
 懐かしいな。あのときと全く変わらない。
 匂いも場所も話し方も、何もかも同じ。

 「さて、私は誰かしら?」
 ちゃんと、覚えてくれてるかな。

⸺⸺⸺
作品57 君の声がする
より、君目線

メモったやつを載っけてたと思ったけど載っけてなかったぽいので、お題に合うようちょっと書き変えました。分かりにくくなってるかもです。
そもそも論、この話単体では分かりづらいと思います。許してください。

3/2/2025, 11:04:38 AM