しろくま

Open App

【始まりはいつも】

恒例の散歩で、下町の味のある住宅地を君とブラブラ歩いていた。
午後の昼には遅く、おやつには早い中途半端な時間だからか、密集した住宅地なのに人の気配がない。
ブロック塀に沿って発泡スチロールの花壇が並び、そこに植えられた花がなんなのかもわからない。
俺たちは不思議な町に迷い込んだような感覚になり、普段だったら絶対にしないのに、いつのまにか手を繋いで歩いていた。
「あ、キンモクセイ」
君は鼻が高いからか、匂いに敏感。
「ほら、あそこに咲いてる」
長い指がさす路地の角には、オレンジ色の小さな花をくっつけた金木犀が見えた。錆びた金網越しに金木犀の枝が伸びて、路地いっぱいにいい匂いが広がっていた。
秋の始まりはいつもキンモクセイ。
俺たちが始まった季節がまたやってきた。
君は「秋だね」と嬉しそうに笑って、手を繋いだまま元気よく歩き出した。

10/20/2023, 1:20:43 PM