君の名前を呼んだ日
下校途中の交差点で彼女と信号待ちをしていた時、彼女に向かって来る車が見えた
「未来!!」
咄嗟に彼女を横に突き飛ばした所で俺は強い衝撃を身体に受けた
あまりの衝撃に気が付いたら地面に横たわり、彼女が泣きながら俺の顔を覗き込んでいた
彼女の頬を触ろうと手を動かすと物凄い痛みが全身を駆け巡った
「圭!!」
俺の表情の変化にいの1番に気が付いた彼女が俺の名前を呼んでくれた
「な…まえ…」
「え?」
「初めて…呼ん…だ…」
掠れてうまく発語ができてない俺の言葉を聞いた彼女はボロボロと涙を流しながら「ほんとだよ…これからももっと呼んで…」と言った
初めて君の名前を呼んだ日は俺が交通事故にあった日
衝撃的な日に初めてを使ってしまったね、と今では笑い話だ
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これで最後
「これで最後ですか?」
引越し業者のお兄さんに聞かれて「そうです」と答える
お兄さんは「わかりました」とだけ言って、最後の段ボールを持って玄関を出て行った
お兄さんの後に続くように玄関に行き、靴を履くとクルッと体位を変える
そこには拗ねた態度の婚約者だった人がいる
「お世話になりました
まぁ、お世話になった事なんて1度もないけど」
嫌味ったらしく笑顔で言うと玄関ドアを開け、外に出る
閉まるドアから見えた彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた
これから起こるであろう事を想像してニヤついてしまう
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さらさら
髪を掬ってはさらさらと指の間から落ちて行く様子を楽しんでいる俺を彼女は鬱陶しそうに見てくる
彼女の視線を気にせず、同じ事を繰り返す俺に呆れた溜息をつくと彼女は手元の本に視線を戻した
ざわざわと賑やかな教室内で俺と彼女の2人がいる場所だけは水を打ったように静かだ
彼女の髪を遊ぶこの時間は俺にとっては安らぎの時間だ
5/28/2025, 10:41:21 AM