「学園一の美少女は平穏を望む」
クラスの女子たちが歓声をあげる。
校庭で男子たちがサッカーをしていて、彼がゴールを決めたのだろう。
今すぐ窓に駆け寄りたいのを堪える。
「やっぱ、王子かっこいー!」
『王子』というのは彼のあだ名だ。
生粋の日本人で庶民なのに、なぜかそう呼ばれている。
彼の活躍に湧くクラスメイトとは対照的に、自分の席に座り本を読んでいる私。
それを見て、友人はため息をついた。
「ほんと『王子』に興味ないのね。勿体無い」
そして、このあと言うことは、誰も、いつも同じ。
「二人並べば美男美女で絵になるのに」
私は図書室に行くからと席を立ち、廊下に出た。
学園一のイケメンでサッカー部のエース。性格も良く、友人も多い。しかも成績優秀で東大現役合格も夢ではない、と言われている彼。
そんな男女共に人気ナンバーワンの『王子』に、私はまったく興味がない──ということになっている。
図書室のある別館へと続く渡り廊下に出ると、ひんやりとした空気に気持ちも引き締まるような気がした。
窓から見えるのは、澄んだ青い空。
向こうから、彼が歩いてくるのが見えた。
珍しくひとりだ。
一歩、二歩、三歩……
だんだんと近づいていき、目を合わすことなくすれ違い、遠ざかっていく。
平穏な学園生活を維持するため、高校では他人のフリをする。
それが、私が彼と交わした約束だ。
────すれ違い
10/20/2024, 3:31:49 AM