NoName

Open App

#特別な夜


―――

杯に、コポリと酒を注ぐ。
透明なそれに、それぞれ青と紫が揺れる。

慣れた人工的な光に、何故だか寂しさを感じつつ
青い杯を煽れば、寂しさも少しは紛れる気がした。

今日は、なんてことはない日だ。

しかし、何時もより飯に気合いを入れて
貰った酒なんかも、出したりしちゃって

無意味に、最愛を待っていたって良いではないか。

…結局、飯は今無駄に大きい冷蔵庫の中だし
酒だって、そこまで呑まないのに開けちゃって

きっと明日には、虚しさしか残らなかったとしても
一時紛らわせられるなら、何でも良かった。

…もう、どれ程になるだろう。
周りからしてみれば短く、自分にとってはながすぎる期間

一人でも大丈夫だとおもっていたのに、現実になった途端これである。

自分でもわかるほど溜め息をだすと
おれは二回目の酒をあおった。





----






久々に感じた、この家特有の甘い匂い。
それを肺いっぱいに吸い込むと、少し早足に部屋への一歩を踏み出した。

リビングへ続く扉を開けると、案の定。
杯を片手に、机に突っ伏する最愛が居た

いくら送っても返らぬ返事。
電話が繋がったかと思えば、一方的に泣きじゃくられながら電話を切られ。

…この時点で分かっていたが、玄関を開けても無反応な所で、確信に変わった。

「おい」

そう言い名前を続けても、唸り声しか返ってこない。
こうなれば明日まで待った方が…とも思ったが、電話を思い出し今度は強めに肩を叩いた。

すると、気が付いたのかゆるりと顔を起こし始めた。
目元は二重の意味で赤く、眠たげな瞳がゆらゆら揺れていた。

「………」
「………」

暫く顔を見つめられ、不思議そうに名前を呼ばれる。
それに返事を返せば、ゴトリと鈍い音と共に、此奴は自分の腕の中にいた。

強めに抱き締められ苦しいが、まぁこれはこれで良いかと、引き剥がしはしなかった。

「……おせぇよ……」

酒が入ったからか、此奴は素直に不満を漏らした。
元々の予定は三日、実際は一週間。
仕事の都合で家を空けていただけなのだが…その間の自分を思い出し、こちらも素直に謝った

「……すなおだ、こんなのあいつじゃねぇ…」
「俺は俺なんだがなぁ…そう言ったら、テメェだって酒が入っら別人みたく素直になるじゃねぇか」
「……んなことねぇよ……」

転がっている缶や便はあるが、多方2杯目で仕上がっちまったんだろうなぁ…と想像して、少し笑ってしまう

「……きょう、メシがんばった」
「ん?」
「……せっかく、好きなのつくったのに」

ほんとバカ、と、腕の力が強くなった。
…色々あってメールをしたのは2時間前だったはずだか…此奴の勘は中々に恐ろしいものだ。
そうして、頑張ってくれた最愛の頭を撫でた。

「そりゃぁ悪りぃ事をしたなぁ…なら、明日の朝食っても良いか?」
「……いまじゃイヤなのか…?」
「テメェ明日には記憶無くなってんだろ。どうせなら意識がハッキリしてっときに食いてぇんだよ」

そう言うと、此奴は呆けた様な顔をした後…嬉しそうに顔を綻ばせ

「…ふふ、そっかぁ…」

と、言った。
それがあまりにも、あまりにも…嗚呼、良い言葉が出てこない。
…兎に角、ここ一週間の隙間が埋まった様な気がして、こちらまで頬が緩んでしまった。


その後、此奴を布団に寝かせた。
勿論、二日酔い防止に水は飲ました。

落ち着いた頃に冷蔵庫を開けると、ラップに包まれた料理がぎっしりと詰まっていた。

―――明日、食えるのが楽しみだな

久しぶりの彼奴の飯に心を踊らせつつ、俺も彼奴の眠る布団に潜った。

…今日は、なんてことはない日だ。

しかし、最後に此奴の顔が見れて
驚く彼奴の顔を見るやら、作ってくれた飯を食べるやら。明日の楽しみも、できてしまって。

俺にとっては、今日も特別な夜になった

1/21/2026, 12:26:20 PM