ある日の夜、突然、近所の騒音トラブルをきっかけに、原因となる部屋を勘違いした彼が、私のアパートの部屋に押しかけて来て、私達は知り合った。
ひたすらに謝罪され、出会いがマイナスから入ったので、プラスに転じて仲良くなるのに時間はかからなかった。
彼はフリーランスで、完全に自宅で仕事をしており、外出もほとんどする事なく、日用品はAmazon、食事はUbereatsで生活していた。
しがないOLでしかない私とは別世界のひと。きっと、彼にとってもそうだったのだろうと思う。
お互いに非現実を現実だと思い込み、1週間に1.2回のの食事や散歩を楽しんだ。
一緒に見る暁の空や夜景は、とても美しかった。
そして、日に当たっていない白い首筋と血管、長く細い指先が異様に艶かしい人だった。
私は、割と早い段階で気付いていた。
私達の関係は長くないと。
週末の朝、彼の大きなベッドの上で目が覚める。寝ている彼を横目に眺める。
私には、一生かかっても買えそうもない時計が、頭の上で音を発する事もせず、未来を追いかけ続ける。
点いていないモニターには、膝を折り、うら悲しく不釣り合いな自分が其処にいた。
私はひとり窓辺に立ち、カーテンを開ける。
紅く染まり始めた朝焼けの街をずっと。
ずっと見下ろしていた。
題;哀愁を誘う
11/4/2024, 2:59:22 PM