[勿忘草]
嫌い。嫌いよ、あなたなんか。
私の心の中にズカズカ入ってきて。
「君は今日も美しいね」
「あなた、毎日同じことを言っているけれど。飽きないのかしら?」
「飽きるなんてとんでもないよ!君の美しさは一日二日で言い表せるものではない!」
「………変な人」
最初からおかしな人だった。
私がどれだけ冷たくしても、そっけなくあしらっても、愛おしそうに私を見て笑った。
「ねぇ、私みたいな愛想のない女に構わないで、別の女のところに行けばどう?」
そう言うと、彼は少し目を見開いた後、眉をへにゃと歪ませて少し悲しそうな顔をした。
「他でもない君が、俺の愛を否定しないで欲しい」
私の目を真っ直ぐ見つめて。
「俺は君しか愛せないし、愛そうともしない」
「…………そう。あなた、顔だけは良いから。てっきり他に女を誑し込んでると思ってたわ」
「ひどいなぁ」
私、あなたに何もしてあげれなかったし、優しくもなかった。
なのに私を見るだけで、自分がこの世で一番幸せですみたいな顔して。
「ほら見てご覧。勿忘草だ。綺麗だなぁ」
その日は温かくていい天気だった。
「知ってるかい?この花の花言葉を」
「知らないわ、花言葉なんて。女々しいだけじゃないの」
「はは、そう言うと思ったよ」
なんでこの花を私に見せたの。
「心臓がね、昔っから悪くてね」
雨が降って、ジメジメした嫌な日だった。
あなたはいつもみたいに笑った。
「そこの、そう、その引き出しに手紙があるから、」
俺が死んだら、読んでくれる?
ひくりと、喉が震えた。
いつも飄々としていた彼は、あっけなく死んだ。
棺の中のあなたは、ひどく静かで。
軽口を叩くあなたが、少し名残惜しい。
葬式が終わった後、彼に言われた通り、引き出しを開けた。
中には一通の手紙と、押し花が挟まれていた。青い、小さな花。
その手紙には、
"愛している。君が俺を忘れない限り"
「この花の花言葉はね、"真実の愛"、"誠実な愛"…」
「……あなたが好きそうな言葉」
「俺のことをよく分かっているじゃァないか」
そう言って、あなたは勿忘草を私の掌に置いた。
「それとね、」
「"私を忘れないで"」
最後まで私の中に居座るのね。
………だいっきらい。
2/2/2026, 1:20:55 PM