それが私の心を掴むのは一瞬でした。
それを見た私はときめきを覚え、虜となりました。
何をするにもそれが頭から離れず、日常を惚けて過ごすようになりました。
恋とはまた違う何かが私の心を支配し、私を別の物へと作り替えていきます。
しまいには夢にまで出てくるほど私はそれに取り憑かれてしまったのです。
母や父、友人などには心配され、何処か具合でも悪いのかと病院へと連れて行かれたこともあります。
けれど私は何処も具合が悪くなく、お医者様に何故こうなってるのかを説明する能力もありませんでした。
いえ、説明したところで理解されないと何処かでわかっていたからなのでしょうね。
数ヶ月経ってもその調子の私を見た友人は私を色んな所へ連れて出掛けました。
きっと私を楽しませようとしてくれたのでしょうね。
私はその友人の行為を有難く思いそして、愛おしく思いました。
私をこんなにも心配してくれる人がいたのだと。
だからつい、そう魔が差したのです。
日が沈みかけた夕暮れ。逢魔が時。
友人は私を夜景の見える綺麗な高台へと連れてきてくれました。
友人が私に背を向け 何かを言いかけた時
私は友人の背を力いっぱい押しました
友人の身体は思ったよりも軽く、簡単に高台の柵を乗り越え下へと落ちて行きます。
落ちていく途中友人は、信じられないものを見た驚愕とその先に待っている死への絶望へ顔を歪め、
地へと落ちて行きました。
私の胸はドクドクと波打ち 身体の力が抜け地へと伏してしまいました。
身体は震え視界も歪みます。
やってしまった、なんて事をと後悔しているはずなのに私の口は笑みを浮かべていました。
私が見たそれは人が死ぬ瞬間だったのです
あれはそう、とある日の夕方 あぜ道を歩いていた時 遠くで女性の叫び声が聞こえたのです。
何があったのかと駆け覗き見ると女性が女性に襲われておりました。
痴情のもつれなのでしょうか、男の事でいい争っていました。
私はその光景をどうする事も出来ずただ眺めていました
そして暫くしたその時 女性がもう1人の女性の首を締めたのです
締められている女性の顔は怒りから恐怖に染まり 顔を涙で汚します。
そこで止めるべきだったのでしょうが、私の足は動かずただそれを見ておりました。
その結果女性は死亡し 女性を殺した女は焦ったようにその場を去りました。
私は見つからないように家へと帰りましたがその日からその女性の死に様の事しか考えられなかったのです。
人の死ぬ瞬間はなんて美しいのだろう。
まさに取り憑かれたという表現が正しいと感じました。
数刻経ったあと私は友人が落ちている先に行き、友人が息絶えているのを確認して友人を山に埋めました。
まるで宝物を隠すように大切に隠し
その後、友人が知らない女に殺されたと嘘をつきました
私はあのあぜ道で女性を殺した女に罪を擦り付けました。
警察や両親たちはあっさりとそれを信じ その女を捕まえました。
女はしきりに知らないと叫んでおりましたが、人を1人殺めたことは事実ですので誰も女を信じませんでしたよ。
え?何故この話をあなたにしたかって?
だってあなた美しくなりたいのでしょう?誰よりも目立ちたいのでしょう?
だから、私があなたをきらめかせてあげようと思いまして。
良かったですね、あなたはこれからいっぱい注目されますよ。
あぁ、嬉しいわあなたが1番美しい瞬間を見れるのですもの。
さぁ、是非このナイフで腹を刺して御覧なさい。
鏡は用意してあげますわ。 写真もいります?
人は死ぬ瞬間1番きらめくのですから。
ね?
9/4/2022, 10:58:12 AM