秋風なぎさ

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目が覚めると
僕は勇者になっていた
ゲームで見たあの世界
大きな城に、シャンデリア、5、6人寝れるんじゃないかというくらい大きなベッド、朝食は、温かなスープとトースト、一口食べただけで僕は幸せになった
ああ、なんていい世界に入ったのだろう
誰にも怒られないし、宿題だってしなくていい
このままずっとここにいたい

しばらくして、僕の部屋(勇者の部屋)に出動要請の知らせがきた
村を困らせるモンスター?
ちょっくら倒してくるかな
軽い気持ちで城を出る
ワールドへはすぐ着いた
さあて、倒しますか
目の前の手足がモジャモジャ生えた生き物をみても、やけに緊張しない
僕は拳を振り上げる
が、気がつくと足が出ていた
なんで?
そういえばワールドに来るときもたまに見当違いの方へ行ってたな。
そう思うも束の間、僕は剣を振り上げ、敵の手足を切り落とした
緑色のベタベタした液体が体に纏わりつく
嫌だ、早く体を洗わせてくれ
しかし、僕は次の敵に向かって走り出す
べちゃべちゃの体は乾燥するにつれ固まっていく
ああ、早く抜け出したい

城に帰った頃には、髪の毛から足の先まで薄汚れた液体が固まり、吐瀉物のような臭いを放っていた
最悪だ、早く早くシャワーを...
「勇者様!よくぞご無事で!
さあさあ、村の者たちが晩餐を用意して待っております!」
う、嘘だろ?このまま?
しかし、喉から声はでない
代わりに
『本当かい?是非行かせてもらうよ!』というテロップと共に笑みが溢れる
そこで、やっと気付いた
僕は操られている、そして勇者には自由がない、常に監視状態であるということに
ああ、勇者よ、本当にすまなかった。もうわざとマグマに落ちるとか、モブキャラを勝手に殺すなんとことはしないよ。だから、もとの世界に帰してくれ。

目が覚めると、そこはいつものベッドだった
ゲームを開くと勇者が待っていたあのいつもの笑顔で
僕はその笑顔を見つめ、勇者に休暇をあたえることにした

7/10/2023, 1:03:31 PM