ラクトアイスを齧る。
久しぶりに母校に来た。
部室にはまだ、見覚えのある新聞記事がラミネートされて貼られている。
もう何年も会っていない顔が、幼さの残る私の顔と一緒に写っていた。
固い、下手な笑顔で。
あの日、目標と勝利の前には、私たちはただの駒だった。
役割を全うすること、課された勝利を掴むこと。
ここではそれが、私たちの存在意義だった。
私は弱かった。
誰よりも一番アマちゃんで、ヘタクソで、意気地なしだった。
だから私は、みんなと対等ではなかった。
常に一番下の、守られるべき鎹でしかなかった。
私をどうにか守って、上の大会へ連れていくという意識のもとで、私たちは結束した。
私はまるで、愛玩動物でしかなかった。
それでも。
それでも悲しいことに、私は人間に成りかけていた。
技術に見合わない自尊心と理想が、現実との摩擦で脳を焼いていた。
あの日。
私は仲間と感情を共有することはなかった。
私のチームに起こることは、常に私の預かり知れぬことだった。
涙さえ流さなかった。
ラクトアイスは固い。
噛み砕くと程よい淡白な歯応えが、口の中に残った。
あの日の私は…
仲間は仲間ではなく、一緒に戦った仲間は友人ではなかった。
私は、守られっぱなし、誰を脅かすこともない、ただのか弱いヒト科の何かでしかなかった。
それでも私は人間だった。
だから、もうあの時のチームメイトには誰にも会うことができなかった。しなかった。
携帯を持っていないのをいいことに、卒業と同時に、私は誰にも会わなくなった。
もう進学校も今の顔も近況すら知らない。
それでも。
今思えば、それも一つの友情だったように思うのだ。
苦しみと屈辱のその思い出に、微かに、懐かしさと温かさが混ざるのだ。
会いたくないの中に、優しかったが混ざるのだ。
全員の名前を、今でも覚えている。
全員の癖も、笑い方も、雑談のノリも。
忘れたはずの思い出は、まだ奥底に沈んでいる。
見ないふりした友情は、まだ奥底で燻っている。
そういう友情もあるのだ。
ラクトアイスを齧る。
淡白で、頑なで、甘さ控えめ。
噛み砕いた感触だけが強く残る。
そういう友情もあるのだ。
棒付きラクトアイスのような友情も。
夏の日差しが窓から差した。
底から這い出た思い出の中の景色が、そこにはあった。
7/24/2024, 11:48:55 AM