そんじゅ

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あまりに高いところまで揚がってしまったから、糸巻きを掴んだ手には凧を攫っていく風の感触すらもう伝わってこない。途中、糸を一度結び足したから高度は大体200メートル位だと思う。最初は青空にきっかりと映えるオレンジ色がきれいだったのに、もう目を凝らしてみても胡麻ほどの小さな点にしか見えない。

空を悠々と泳いでいるいくつもの凧が、不意に水族館の大水槽の景色と重なった。透明な檻の中で行き場のない自由と、無限へ続く空の下で頸木をひかれる不自由。
あの凧は地上へ戻りたいだろうか。

「力を抜いちゃいけない、風に持っていかれるよ」

ぼんやりしていた私の手を、包むようにあなたが強く握った。からになった糸巻きには噛み付くように固く糸の端が結ばれている。空に吸い込まれそうだった私の心を、この温かな手が繋ぎとめてくれた。

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「高く高く」

10/15/2022, 5:44:10 AM