「人身事故のため、運休」
アナウンスもなく置かれた看板に、一同ため息を漏らした。僕もその一人だったはずだが、内心嬉しかった。
会社に連絡を入れ、近くのカフェに向かった。
「こんにちは」
「え、どうされたんですか?」
彼女は目を丸くした。僕のスーツ姿を見たからだろう。
「電車止まっちゃって……。動くまでゆっくりします」
「大変ですね。ごゆっくりどうぞ」
彼女は店員の顔に戻ってお辞儀をした。
僕は休日に頼んでいる、トーストセットを注文した。
彼女は先にコーヒーと、トーストに塗るジャムやバターを、僕の前においた。
彼女に目を合わせようとしたが、そんな都合よくいかない。
トーストとサラダが運ばれ、僕はジャムを塗って食べた。
ジャムの甘さは僕の甘さ。
コーヒーはほろ苦く、僕の思いの行き所がない現状を表しているかもしれない。
彼女の目を気にせず、本を読んで過ごそう。たまに彼女のことを思い出すくらいがちょうどいい。
こんな時間がずっと続けばいいのにな。
3/12/2024, 12:15:51 AM