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たった1つの希望


それは海に出て、十日後のことだった。澄みきった青は曇天に隠れ、嵐が波を荒れさせる。
舵が取れなくなった船は波にさらわれて、行き先も知らずに進んでいく。
神の怒りに触れたような嵐の中、数日が過ぎて、ようやく青空と太陽が見えた。
進んでいる内に現在地がわからなくなり、さらにはコンパスも壊れてしまった。このまま海の上をさまよい、帰れなくなるのでは、いやそれよりも食料が尽きる方が先か、と不安が頭をよぎった、その時だった。
夕暮れの空に一等明るく光る星があった。それを見て、船乗りだった父の言葉を思い出す。
「いいか、もし海の上で現在地がわからなくなったら、空を見ろ。星は己の居場所を教えてくれる希望の光だ」
その言葉を信じ、記憶を総動員させて現在地を導きだす。夜空に光るその星はまさしくたった1つの希望だった。

3/2/2023, 2:18:18 PM