No.5『透明』
透明になりたいと思ったことがある。
私は人から向けられる視線が苦手だ。侮蔑の視線も好奇の視線も期待の視線すら苦手だった。苦手というより嫌いの方が近いかもしれない。
そう感じるたび、透明になりたいと思った。
透明になればそんな視線を浴びることはなくなる。
ある日、夢を見た。自分が透明になる夢を。
私が考えていたように、私が嫌いな視線は向けられず、全員が私をいないものとした。
初めのうちは嬉しかった。もうあの視線に嫌な思いをさせられることはないと思ったから。
しかし、だんだん寂しさが込み上げてきた。
親しい人に話しかけようが、相手は私に気づかないまま無言で通り過ぎていく。
家に帰ってもそれを迎えてくれる声はない。
私はここにいるのに…!!
そんな怒りさえ込み上げた。
「っ……!!」
目を覚ますとそこはいつもの私の部屋だった。
家族に挨拶をすればいつものように挨拶を返され、友人に会えばいつものように笑い合った。
私は『いつも』が好きだ。その私の『いつも』に透明はいらない。
どうかこれからも『いつも』の色に染まっていられますように──。
5/21/2024, 12:32:14 PM