【耳を澄ますと】
耳を澄ますと、この世界のどんな音でも聞こえる気がした。その代わりに目の前の景色は、パラパラ漫画のようにゆっくりだった。体は動けず硬直していたというのに、何を聞こうとしたのだろう。いや、きっと何も聞きたくなかったんだ。だってこの記憶は決して良いものではないのだから。
そうだ、その時聞こえたのは世界中の音じゃない。たった一つのトラウマの音だ。
……プレゼントだった。その時車に轢かれたそれは。私の体中の臓器がひゅ、と縮んで。頬から首へと伝わる鳥肌が周りの空気を拒んだ。そう、それは夏の始めの日の光が綺麗な日のことで。ばき、という音が嫌に鮮明に聞こえると同時に、無慈悲な車のタイヤが走っていく。弱い風が吹いていた。
5/4/2026, 2:50:01 PM