お子

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あの日は、可惜夜とでも言おうか。
誰にも見つからないようにそっと寝台を抜け出して、
彼の傷の手当をしていたんだ。
彼がふと空を見て
「この月は何色をしている?」と問うた。
目は見えているはずなのに。
なぜそう問われたのか、分からなかった。
『綺麗な色をしています』
だが、何も聞かずそう答えた。
疑問に答えるように彼は話した。
「母様が亡くなって父様が変わり始めた日から、私の目から、心から…色がなくなった。君が綺麗という虹も桜もしゃぼん玉も…この月も、何色か分からなくなった。」
『……』
「おかしな言い方になるが、私の目になってくれ。君が心から綺麗だと思うものを教えてほしい。私の世界に色が戻ってくるその瞬間、隣には君がいてほしいんだ。」
言葉に驚く暇もなく、彼に接吻をされた。思えばあれが初めての接吻だった。

――新月だった。
彼は突如この家から消えた。生死はまだ分かっていない。

『…貴方のおかげで私も分からなくなりました。』
虹も桜もしゃぼん玉も…この月も、貴方が隣にいないからまるで綺麗と思えない。
貴方は今どこで何を見ているの?
隣にいろと言ったきりで私を置いていくなんて許せない。せめて死んではいるな。貴方の死に顔を見るのは私だ。必ず見つけてやる。見つけて世界に色がついた瞬間、あの日よりもずっと愛のこもった接吻をしてやる。落ちる涙と強かな決意を池に浮かぶ満月が受けとめた。

3/7/2024, 10:41:40 AM