池上さゆり

Open App

 私のスマホにはずっと開けないLINEが残っている。
もう一年以上開けないままだ。元彼と別れ話をして、お互い今までありがとうで終わった後に画像が送られてきた。通知欄に残っているのは、画像が送信されましたという文字だけでどんな画像なのかは確認していない。ずっとLINEの通知が一と残っている。
 その後、新しい彼氏ができていい加減、元彼をブロックするなり連絡先を消すなりしようかと悩んでいた。だが、最後に残された画像が気になってそれができなかった。
 しばらくして、彼氏とお互いのスマホを気兼ねなく見合える関係になった。案の定彼氏に開けないでいるLINEについて訊かれた。
「自分でもうまく説明できないんだよね。もうずっと放置してあるの」
「じゃあ、俺と一緒に見ようよ」
 彼氏にとってはただの興味本位でしかなかったのかもしれない。でも、私はすぐに返事ができないぐらいには動揺していた。大丈夫だよと言われて、隣に座る。スマホは彼氏の手に中だ。
「それじゃあいくよ」
 そう言われて、小さく頷くと久々に元彼とのトークが開いた。最後に送られてきた画像をタップして、大きく表示した。反射的に口元を押さえつけた。
 そこに映されていたのは今まで撮った多くの写真がコラージュされて一枚の画像になっていた。その真ん中に「愛してる。これからも幸せにね」と書かれている。元彼はこんなことできる人じゃないのだ。こんなサプライズのようなことなんてできない。ずっと私の話を聞くばかりで寡黙な人で、自分の意見よりも私の意見を優先してきた。どんな時だって私の選択を尊重してくれた。愛情表現だって滅多になかった。
 私はそれが耐えられなかった。自分だけ特別であるかのような。常に自分を卑下しているかのような。そんな態度がずっと嫌だった。対等な関係になれないならと思って、別れたのに、元彼は最後の最後に私を喜ばせようとしてくれたのだ。
 なんてことをしたのだろうと、涙が溢れて止まらなかった。今さらどうしようもないことだが、時を戻せるのならあの頃の自分に教えてやりたい。ちゃんと愛されているよって。
「……元彼と連絡とってみたら」
 彼氏にそう提案されたが、断った。私たちの関係はこの時で終わったのだ。蒸し返してはならない。
 私は今を大切にしていく。元彼にはメッセージを送らず、そのままトーク画面を閉じた。ずっとつけられなかった既読の二文字が、いつか彼の目にも届きますように。

9/1/2023, 2:28:52 PM