天津

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閉ざされた日記


押し入れから段ボールを引き出す。なんの印も付けていないので、いつのものが入っているのか分からない。しかし、何重にも貼られたガムテープを剥がして中を見れば一目瞭然だった。

しわくしゃのプリントや表紙の擦れたノート、なぜ残そうと思ったのか不明なあれやこれやが、懐かしさというより子供のあどけなさに対する慈しみに似た感情を起こさせる。まるで他人のようだ。転がっていたガラクタや書き込まれた文章を見ると、ところどころ古い記憶と結びつきはするのだが、セピアのベールというかアクリルの壁が彼我の間にあって、不思議と手触りがないのだった。

そのまま乱雑な箱の中を物色していると、文庫本くらいの大きさの手帳が見つかった。日記帳だ。そういえば昔、まめに毎日記録していたのだった。

どうして書くのをやめたんだったか、と思い出そうとしつつ手帳を開こうとする。が、表紙だけめくれて以降がめくれない。本文部分は全ページくっついていて、板のようになっている。よくよく見ると、部屋の蛍光灯を反射しててらてらと光っており、どうやらのりで固められているようだった。

中身を見るにはどうしたものかと考えかけて、ぞくりとした。かびたミカンに触れてしまったような、思いがけない嫌な感触が背筋を走った。なぜ、と思う。何も心当たりがない。しかし、手帳をこんな状態にしておいて何の心当たりもないことが、最大の恐怖だった。

我に返って、段ボールの中身に視線を落とす。つい先程までごみくずに見えていたあれこれが全て、生臭いなにかを包み隠しているように思えてくる。

わけがわからなかった。頭の中が真っ白だった。一刻も早く封じ込めなければならないという焦燥に駆られるままに段ボールに詰め直し、ガムテープで徹底的に封をした。その段ボールを押し入れに仕舞い直しながら、その光景の既視感にぞっとした。

前に取り出したのはいつだったか。

その段ボールは、知らぬ間に親が捨てるかなにかしたようで、もう行方はわからない。


2023/01/19

1/19/2023, 9:18:38 AM