あやや

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 目を閉じて、しんしんと降る雪を顔面で許容する。まつ毛にだけ雪が積もり、他は体温で溶けて顔が湿って行く。私には血が通っている。生暖かい血が通っている。
 とても寒い土地では、水をばら撒くだけで気体となって消え失せるかのように姿がなくなるのだという。ならば、血をばら撒けばどうなるのだろうか。真っ赤な霧になって、どこかへと旅に出るのだろうか。
 私はなんとなく、それがみてみたい。でも、そんな些細な興味は降り積もっても、春が来た雪のようにいつしか心から消え失せる。些細な興味全てをこの手で叶えられたなら、私は幸せになれそうな気がするのだ。そんな力があったなら、私は幸せな心地で日々を過ごせるような気がするのだ。
 だけれど現実にそうはならなくて、私は今年も無為に年を越して行く。
 私は人間の静脈を全て取り出して、一本にした時の実際を知らない。セーターのほつれを全て解いてみた時の姿を知らない。薄型テレビの中身を知らない。動物の骨を全て抜いた後の肉の姿を知らない。
 きっとこれからも知ることはない。
 だから、些細な興味も叶えられない自分を嘲笑しながら、来年もそうなのだろうと思って、だから別の何かで幸せになれますようにと、私は祈る。
「良い年になりますように」
 些細な興味など全てどうでも良くなるようなしあわせが、私に降り注ぎますように。

12/31/2023, 1:35:37 PM