薄墨

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恋人は、ほんのり磯の香りがする。
どこまでもどこまでも広がる、海の匂い。

すべらかな肩のくぼみに鼻をうずめる。
温かい皮膚の奥から、匂いがふんわりと香る。
体をすぼめて、できるだけ体温を感じられるように抱きしめた。
香水も清涼剤もつけない君の体は、ボディソープと素朴な、君自身の匂いがする。

体をすくめて、目をつむる。
飾り立てのない、清潔で柔らかな君の匂い。
それが、私にはとても心地いい。

こうして君とくっつきあっている間は、あちらこちらの関節がほぐれて、体が幸せに、柔らかくなっている気がする。

君の細い指が、夢うつつに私の背骨をなぞる。
眠っている君の温かさが、私の夢を招いている。

私は目を閉じたまま、ゆっくりと意識を沈めはじめる。
深く、深く、どこまでも。
君の横でなら、私はどこまでも安心して眠れる。

どこまでも続く、広い海の匂いの染みついた、君の横でなら。

10/12/2025, 11:19:58 PM