sippo

Open App

ショッピングモールの中のバイト先の隣の店にその人は居た。
同じ大学の、違う学部の一つ上の先輩。それしか知らない。
バイトの休憩所が一緒だったから、何度か被ったときに挨拶をした程度の関係で、向こうはわたしのことなんて気にも止めていないだろう。

はじめはきれいな顔をした人だなと思った。
よく見るとそんなに整っているわけではないのだが、なんとなく全体の印象がお人形のように清らかなのだ。
どちらかというと大人しい性格で、他のバイトの学生と騒いでいるところはあまり見たことがない。
人付き合いが悪いわけではなく、意味もない馬鹿騒ぎには乗らないようだった。
そういうところもとても好感を持てた。
大学生といえば恋愛話に花が咲く年頃なのに、そういった話も全く聞かなかった。

いつからかシフトに入るたびにあの人はいないかと見るようになった。
別に恋人関係になりたいわけではない。ただあの美しい人を眺めていたかった。

一つ上の先輩だったので、彼は当然わたしよりも先にバイトを辞めていった。

それが、それから半年後。
街を歩いていたら偶然、その人を見かけた。あれだけ盗み見ていた横顔を見間違えるはずがない。

その人は、女性と並んで歩いていた。

その光景を見て、ショックを受けたことに自分でも驚いた。

わたしの見ていた彼が居なくなった。
感じたのは確かな喪失感だった。
憧れのアイドルのような、そんな一方的で勝手な思い。
そうか、でも、これも一種の恋だったのか。

誰も知らないところで、わたしは静かにちいさな失恋をした。

6/3/2024, 11:31:52 AM