G14(3日に一度更新)

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120.『揺れるキャンドル』『遠い日のぬくもり』『祈りを捧げて』


「それでは皆さま、神の愛に感謝し、世界の平和を祈りましょう。
 アーメン」
「「「アーメン」」」

 とある教会に集まった人々が、一斉に祈りを捧げていた。
 この教会では、定期的にこうした集いが行われている。
 信仰に年齢は関係なく、老若男女問わず、多様な人が訪れる。
 先行きの見えない不安定な時代だが、彼らの顔に憂いは無い。
 自分たちは、神に愛され、守られている――そう固く信じているからだ。

 そんな中で一人、顔に憂いを湛えた少年がいた。
 名前をカズマ、7歳の男子である。

 彼は信心深い母親に連れられここに来た。
 息子も神の慈愛に触れて欲しいという親心からだが、当の本人は不満でいっぱいだった。
 それもそのはず、ゲームが好きなお年頃。
 よく分からない神の愛より、プレゼントをくれるサンタの方がよっぽど身近だった。。

 そんな様子だったので、カズマはこの静かな場所が退屈なことこの上ない。
 今すぐにでも叫びながら駈け出したい衝動に駆られるが、それが許されないことくらい彼は弁えていた。
 仕方なくカズマはキャンドルの火を見つめて時間をつぶすのだが、だがそれもすぐ飽きてしまう。
 この場には、彼の興味を惹くものは何一つ存在しなかった。

(眠い……)
 揺れるキャンドルの火が、彼に『眠れ』と囁く。
 暖房こそないものの、大勢の人々の熱気がこもった聖堂内は、心地よい暖かさで満たされている。
 しかも照明はキャンドルのみ。
 薄暗いこの空間は、居眠りにはうってつけだった。

 だが寝ることは出来ない。
 もし船を漕ごうものなら、彼の母親に説教されることは明白。
 彼は見た事のない神の怒りよりも、母親の雷の方がよっぽど怖かった。
 その恐怖が、カズマを現実の世界に繋ぎとめていた。

 だが現実は非情である。

「皆様、お顔をお上げください。
 えー、これから説話を始めたいと思います」
 高齢の神父が現れ、穏やかに告げる。
 カズマは『せつわ』という言葉をよく知らなかったが、彼は嫌な予感がした。
 だが彼が行動する前に、神父の話は始まってしまった。

「えー、皆様お集まりいただきましてありがとうございます。
 えー、本日は我らが御子の奇跡の逸話について、えー、お話ししましょう」
 彼の嫌な予感は当たった。
 単調なリズム、たくさんの『えー』、抑揚のない声……
 それらが導き出す答えに、カズマは天を仰ぐ。

「えー、長い話になりますが聞いていただければと思います」
 始まったのは、まさしく『校長先生のお話』であった。
 退屈で、単調で、中身のない、聞くものの気力を奪うお話。
 ただでさえ限界に近い眠気が、追い打ちをかけるように襲ってくる。

 (大丈夫だ。
  今までも、校長先生の長話で寝なかったじゃないか……)
 カズマは必死に自分を鼓舞し、意識を保つ。
 耐えられるか分からない。
 だが、母親の雷を落とさないためにも、絶対に負けられない戦いであった。

「大丈夫、大丈夫だ……」
 誰にも聞かれないほど小声で呟くカズマ。
 こうしてカズマの長く辛い戦いが始まったのだった。


 ◇

「おや、そこの男の子は大丈夫ですか?」
 神父の言葉にハッとして、カズマの母親は横を向く。
 そこには、母親の肩に体を預け「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と寝言を零しながら、スヤスヤと眠るカズマの姿があった、
 その様子を見て、カズマの母親の顔は真っ赤になる。

「申し訳ありません!
 すぐ起こします!」
「いえ、構いませんよ。
 そのまま寝かせておきましょう」
 彼女が慌ててカズマの肩をゆすろうとしたところを、神父が止める。

「ですが……」
「彼にはまだ神の愛を感じられるほど信仰心は無いようです。
 ですが、問題ありません」
「と言いますと?」
「その代わりに、彼に毛布を掛けてあげましょう。
 ……お母さま、あなたが幼い頃、親からもらった遠い日の温もりを覚えてますか?
 神の愛が感じられないならば、まず我々が、目に見える愛を与えればいいのですよ」

12/30/2025, 2:11:40 AM